8 上智大学への告発と大学当局による不誠実な対応

(1)大学院研究科への問い合わせ(2019.4.27)

上智大学研究不正事件の被害者の、藤岡信勝、藤木俊一、山本優美子の3名は、4月27日、不正な研究が行われた上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科の委員長あてに、問題の発生した経緯を説明した上でインタビューに訪れた3名の元大学院生(出崎幹根、岡本明子、オブリー・シリブィ)に関する質問状を送りました。

すると、デヴィッド・ワンク委員長から、出崎本人からの書面による同意がない限り対応しないとの返信があり、回答を拒否されました。被害者が加害者の所属する機関に対して被害を告発しているのに、加害者本人の書面による同意がなければ、機関としては対応しないと言っているのです。冷酷・不当な、門前払いです。

(2)大学当局への電話による告発(2019.6.21)

 そこで、6月21日、藤岡信勝は、上智大学の卒業生である山本優美子の協力のもとに、「告発窓口」として大学が指定している監査室に電話をし、窓口担当者に30分ほど説明をしました。そして、同学の責任者の立場にある学長または研究倫理担当の副学長に説明のための面会のアポを求めました。

ところが、当方への返事は、学長・副学長との連絡がつかない、連絡はついたが検討中である、面会するかどうかも検討中だ、いつまでに結論を出すかは答えられない、などの極めて不誠実な、際限のない引き延ばしでした。

(3)「通告書」の送付(2019.8.28

 上智大学当局において、事件に誠実に向き合う姿勢が全く見られないために、被害者ら5名(ケント・ギルバート、トニー・マラーノ、藤岡信勝、藤木俊一、山本優美子)はやむなく、出崎幹根および中野晃一の研究不正に関する「通告書」(8月28日付け)を内容証明郵便として代理人経由で、上智学院佐久間勤理事長と上智大学嘩道(てるみち)佳明学長あてに送付しました。

すると、事件についての最初の提起(4月27日)から実に4か月以上も経過した9月2日、大学が調査委員会を組織する予定であるとの連絡を、事務窓口を通して、電話にて受けました。9月4日には、3日付けの学長名で、「研究活動上の不正行為に係る調査について(調査の実施及び調査委員会委員の通知)」と題する文書が送られてきました。その中で、6月21日の藤岡による通報に基づき調査委員会を設置することを伝えるとともに、「上智大学における研究活動上の不正行為に係る調査の手続きに関する内規」の規定によるとして、調査委員5名の名簿を知らせてきました。

しかし、5名の調査委員のうち、研究者は2名であり、驚くべきことに、その両名ともが、明らかに研究上・運動上、中野教授の人脈に属する人物でした。そして、被告発者には中野教授が含まれていないのです。これは、すでに出崎・中野両名を告発した「通告書」を大学当局が手にしているにもかかわらず、そこに書かれていることを全く無視して、中野教授の研究倫理義務違反については不問に付すという意図が見える、小手先の責任逃れの小細工でした。私たちは、三度、裏切られたのです。

(4)「異議申立書」の提出(2019.9.11

私たちは、9月11日、2名の委員についての詳細な忌避理由を記した「異議申立書」を提出しました。

これに対し、9月25日付けで、学長名の「ご連絡」がありました。「ご連絡」文書の内容は、

  1. 「通告書」および「異議申立書」を踏まえ、
  2. 調査対象事項を改めて検討すべく、
  3. 調査委員を一部交代させたうえで、
  4. 予備調査の実施を予定している

というものでした。

ここで、初めて「通告書」をとりあげ、中野教授を被告発者と認め、それに伴って、調査対象事項を変更し、調査委員の一部交代を行うとしている点で、私たちの主張を取り入れた、当局の対応の一定の変化を示すものでした。他方、相変わらず問題を隠蔽する意図がうかがわれるものでもありました。問題点は、①「通告書」の発出主体は5名(ケント・ギルバート、トニー・マラーノ、藤岡信勝、藤木俊一、山本優美子)であるにもかかわらず、藤岡信勝のみを告発者として位置づけ、②交替する調査委員が誰で、誰が替わって任命されるのか実名が示されず、③予備調査の役割は本調査を実施するかしないかの判断材料を集めるものであるため、本調査を取りやめにする意図と可能性も否定し得ない、というところにありました。

(5)「公開質問状並びに異議申立書」の提出(2019.10.1)

私たちは四度裏切られるわけにはいきません。そこで、今度は「公開質問状並びに異議申立書」(2019.10.1)として、10月1日付けで文書を提出しました。その内容は、

  1. 退任・就任する委員の人数と実名が伏せられているので、この交代が本当にこの問題に取り組む上智大学の姿勢の改善を意味するのか、それとも事態を糊塗するものなのか、判断のしようがない。なぜなら、中野人脈の人物を代わりに据えることはいくらでもできるからだ。そこで、必ず実名を示し、それについて前便と同様、7日間の判断の猶予を与えることを要求する。
  2. 告発者を「藤岡信勝」一人にしぼっていることは極めて不当で、厳重に抗議する。告発者は5名であると訂正することを要求する。
  3. 学長名の「お知らせ」には、調査の日時や調査方法などについての具体的な事実が少しも書かれていない。調査方法について、直ちに当方の代理人弁護士を含めた被害者たちとの協議の場を用意することを要求する。
  4. 被告発者の2人に、告発者及び告発内容の開示の要請があったので通知するとしている。この「通知」は、「上智大学における研究活動上の不正行為に係る調査の手続きに関する内規」の第何条に基づくものなのか。普通、被告発者に対する「通知」は告発者側からのヒアリングの後になされるのが常識と考えられるが、このような措置をとった理由は何か。
  5. 当方も1点質問する。大学院生出崎幹根の修士課程入学時点は何年何月か。
  6. 9月3日付けの学長からの「通知」では、「本調査」を実施すると書かれていた。ところが、9月25日付けの「ご連絡」では、予備調査を行い、それに基づいて本調査を行うかどうかを決定する、と読める内容となっている。前回は予備調査を省略し本調査の実施を決めたと解釈できるが、今回、それを変更して予備調査から始めることに変えた理由は何か。
  7. 内規第15条(本調査の通知)の第11項に「学長は、本調査を実施することを決定したときは、当該事案にか係る研究費等の資金配分機関及び関係省庁に、本調査を行う旨を報告するものとする」とある。前便貴信では、「本調査」の開始をうたっていたが、9月3日時点で、文部科学省に報告したか。

回答期限は、大学当局が異議申し立て書の提出期限に定めているのと同じ「7日以内」としました。回答期限切れの10月8日付けで、上智大学当局から「公開質問状並びに異議申立書」(2019.10.1)に対する書面が届きました。しかし、その内容は、慎重に検討してから回答したいので、回答期限を延長して欲しいというものでした。10月20日現在、大学からの回答はまだ届いていません。

(6)予備調査の実施と本調査の決定

 その後、11月1日付の「予備調査実施について(ご連絡とお願い)」が告発者側に届き、中野晃一教授とDezakiの研究不正についての書面による資料提出が求められました。なお、調査協力依頼文面の発出主体である予備調査委員会の委員長には、「異議申立書」(2019.9.11)において忌避した人物とは別の人物(上智大学教授)が据えられておりました。

 そしてついに、12月18日付の「本調査の実施および調査委員会委員の通知について」が告発者側に届きました。そして、中野晃一教授とDezakiを被告発者とする研究不正事件について、予備調査委員会は「嫌疑あり」として、本調査の実施を答申し、それを受けて調査委員会はその通りの決定をしたことが通知されました。

 私たちは、これまで、幾度となく上智大学には裏切られてきました。はっきり言えば、研究協力者の人権を侵害する研究不正事件という研究機関の不祥事を、隠蔽・矮小化しようとする意図にさんざん苦しめられ、その都度、真実を突きつけることで、上智大学の正常化を促してきました。そして、関係当事者双方からの事情調査を実施した結果、当然ですが、もはやこの事件は隠蔽・矮小化が可能な域を超えており、明白な研究不正事件として「嫌疑あり」の判断を下さざるを得なかったのです。

 この間に、被害者側と上智大学との間でやりとりされた文書を一覧表にし、概要を説明すると、次のようになります。

①「『質問状並びに異議申立書』について(ご回答)」(2019.10.31)【曄道学長から 藤岡宛】 概要:「公開質問状並びに異議申立書」(2019.10.1)に対する回答。

②「回答書」(2019.11.1)【曄道学長から 高池弁護士宛】 概要:「通告書」(2019.8.28)に対する回答。

③「予備調査実施について(ご連絡とお願い)」(2019.11.1)【予備調査委員会委員長から 藤岡宛】 概要:研究協力者に対する研究実施状況についての、書面調査協力依頼。

④「要求書」(2019.11.18)【藤岡・藤木・山本から 予備調査委員会委員長宛】 概要:被害者からの予備調査委員会に対する要求。

⑤「回答書」(2019.11.25)【予備調査委員会委員長から 藤岡・藤木・山本宛】 概要:「要求書」(2019.11.18)への回答。

⑥「要求書②」(2019.11.29)【藤岡・藤木・山本から 予備調査委員会委員長宛】 概要:被害者からの予備調査委員会に対する要求。

⑦「通告書」(内容証明郵便)(2019.12.10)【高池弁護士から 曄道学長宛】 概要:被害者側の代理人弁護士からの、上智大学に対する通告。

⑧「本調査の実施および調査委員会委員の通知について」(2019.12.18)【曄道学長から 藤岡/藤木/山本/ギルバート/マラーノ宛】 概要:本調査実施決定および調査委員会委員名簿についての通知。

⑨「回答書②」(2019.12.18)【調査委員会委員長から 藤岡・藤木・山本宛】 概要:「要求書②」(2019.11.29)への回答。

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